*** 茜翠(あかり)の疾風(かぜ)に想いを乗せて *** |
2009年06月15日深夜、東北新幹線の鉄路に次世代新幹線の脈動が響き渡りました。その新幹線とはE5系量産先行試作車S11編成。このE5系は2010年12月の東北新幹線八戸〜新青森間開業に先駆けて、JR東日本が同線区内を走る列車の更なる高速化と環境水準の向上を実現させるべく開発した車両です。『常盤グリーン』と『飛雲ホワイト』を身に纏い、『はやてピンク』の帯で結んだその斬新なエクステリアデザインは、従来の新幹線とはまた一味違った趣きを持っています。公式試運転初日とその2日後に仙総所で行われた報道公開には多数の報道関係者が詰め掛け、その模様が様々なメディアに取り上げられていました。そんなE5系ですが、開発の経緯はおよそ今から10年前の2000年に遡ります。このPrologueでは、簡単ではありますが本題に入る前にその経緯を少しだけ振り返ってみるとしましょう。 |
T.目指すは世界一の新幹線 | |
JR東日本は2000年11月に2001年から2005年までのグループ中期経営構想『ニューフロンティア21』を策定しました。この構想は「顧客価値の創造・顧客満足の追求」・「技術創造による業務革新」・「社会との調和・環境との共生」・「働きがいの創出・活力の創造」・「株主価値の向上」を経営の基盤とし、今後予想される「グループを取り巻く今後の経営環境の変化」に柔軟に対応していくために、JR東日本グループの目指す具体的な取組みを定めたものです。さらに、その構想の中で『世界一の鉄道システムの構築』という目標を掲げ、それに基づいて2002年04月に『新幹線高速化推進プロジェクト』を社内に発足させました。 『新幹線高速化プロジェクト』は、新幹線ネットワークの拡大に伴うサービスの向上・航空機との競争力強化・世界最高水準の高速化技術を目指して、「走行速度の向上」・「安全性及び信頼性の確保」・「快適性の向上」・「環境への適合」をテーマに営業最高速度360km/hを技術目標とした新幹線高速化の技術開発を行うためのプロジェクトです。2004年初めまでの約2年間は技術的課題の整理や要素技術開発を始め、現有車両を使用した高速走行試験などを行っていました。新幹線高速走行時の基礎データ収集のために実施した現有車両での高速走行試験では、高速化改造したE2系1000番台及びE3系でそれぞれ360km/hと340km/hという速度も記録したそうです。そんな中で、2004年02月には新型車両の礎となる高速試験電車E954形及びE955形の製作発表が為されると、プロジェクトはいよいよ実車試験へと入って行きます。 |
U.Fastech360に夢を託して | |
2005年06月には新幹線専用高速試験電車である待望のE954形S9編成が落成。Fastech360に新幹線の未来と高速化の夢を託して、待望の実車試験が始まります。06月24日の報道公開を経て翌25日には仙台〜北上間で深夜時間帯に走行試験が開始。そこから約半年間は終電後の深夜時間帯に基本性能試験を行いました。それもあってか、最初の半年間はS9編成との遭遇頻度もかなり低かったことでしょう。そして、2006年02月21日からは仙台〜盛岡間にて営業時間帯に走行試験が開始されます。この頃からS9編成が沿線で目撃される回数も徐々に増えていったように思いますね。走行試験のダイヤがパターン化したことも目撃回数が増えた理由の一つなのかもしれません。さらに、2007年04月には走行試験区間が仙台〜八戸間へと拡大し、S9編成を使用しての長期耐久試験も全盛期を迎えることとなります。 また、E954形S9編成の落成からおよそ9ヶ月遅れて2006年03月には新在直通用高速試験電車E955形S10編成も落成。 |
同年04月からS9編成と同様に仙台〜北上間において深夜時間帯に走行試験が実施されるようになり、高速試験電車二編成が晴れて出揃いました。その後も走行試験を重ねていったS9編成とS10編成は、2007年07月頃から深夜時間帯に併結走行試験をも実施するようになりました。ただ、S10編成に関しては2007年度中に走行試験区間が秋田まで延伸してからも、その殆どが深夜時間帯における走行試験だったことから、明りの下で見ることは非常に難しかったように感じます。 2008年度になると04月からはS9編成の走行試験区間が大宮〜八戸間へ拡大。長期耐久試験の最終段階へと突入して行きました。S10編成も同年06月からは漸く日中に走り始めるようになり、こちらも注目の的となりました。07月と09月には待望の営業時間帯における併結走行試験も実現。この営業時間帯における併結走行試験は通算してたったの3回しか行われなかったことから、今となってはとても貴重なものであったと言えるのではないでしょうか。 |
しかし、2008年10月01日の田沢湖線での走行試験で以て、S10編成は本線上での役目を全て終えS9編成よりも一足先に現役を引退。その後2008年12月12日付で編成名を削除され、惜しまれながらも全車両が廃車・解体の運命を辿ることになります。 他方で、残された兄貴分のS9編成はS10編成引退後も引き続き長期耐久試験を継続。2009年03月には走行試験区間が熊谷まで延伸し、同年05月下旬から06月中旬に掛けて深夜時間帯の長野新幹線高崎〜軽井沢間にて勾配試験も行いました。でも、その長野新幹線内での勾配試験で以てS9編成も遂に本線上での全ての役目を終了。2009年06月15日の新一運から仙総所への回送が最後の本線走行となってしまいます。それ以降は暫く仙総所内に留置されるも、二度と本線上に姿を現すことはありませんでした。結局、2009年09月17日までに惜しくも全車両が廃車・解体され、2009年11月現在ではE954形・E955形共にもうその姿を見ることは出来なくなっています。 |
V.茜翠の疾風に想いを乗せて | |
惜しくも1両も保存されることなくこの世を去ったE954形とE955形。しかしながら、彼らに託した夢は消えることはありません。E954形とE955形の引退によって1つ節目を迎えたのは紛れも無い事実ではあるものの、それは同時にE5系…果てはE6系の登場という新時代への幕開けでもあります。両形式からフィードバックされた技術はE5系及び今後登場するE6系へと確実に引き継がれ、その多大な功績はずっと語り継がれていくはずです。それはつまり、Fastech360に託した夢と願いはこれから先もE5系やE6系へと引き継がれていくとに他なりません。 また、E954形S9編成の本線最終走行日が2009年06月15日。他方、E5系量産先行試作車S11編成の本線初走行日もそれと同じ2009年06月15日。このように両者の日付が同じだったのは、今まで走行試験を繰り返して来たE954形Fastech360S及びE955形Fastech360Zから東北新幹線の未来を担うE5系へのバトンパスの意味合いもあったのではないか…私はそんな風に考えています。 |
2009年06月15日から本線を走行し始めたS11編成は09月に掛けて深夜時間帯の仙台〜北上間にて基本性能試験を実施。同年10月14日からは日中時間帯の走行試験も始まっています。10月17日には初となる一般公開が新潟新幹線車両センターにて行われ、それに伴う上越新幹線内での初走行と併せて多くのファンの注目を集めました。まだ走行試験区間は仙台〜北上間に留まっていますが、今後は南は大宮、北は八戸まで延伸していくことと思います。一通りの走行試験が終われば未開業区間の八戸〜新青森間での走行試験も始まるはずです。加えて、来年度にはE955形の技術を反映したE6系量産先行試作車S12編成も登場して来るでしょうから、そちらの方もS11編成の動向と共に注目すべき事柄になると思います。 私自身、S11編成とこれから登場するS12編成が今後営業運転を開始するまでどれだけその勇姿を見届けられるかは分かりませんが、前身となるE954形・E955形連載遠征旅行記『 Fastech360に夢を託して 』のように少しでも多くこの連載遠征旅行記も続けられたら…そう願っています。営業運転を始めるまでの間の走行試験の様子を出来る限り多く撮影出来たら嬉しいですね。…新幹線の明日へと向かって吹き続ける茜翠の風に沢山の想いを乗せ、いざ東北路へ。 |
*** Prologue 終 *** |
2009.10.25 THE SUPER EXPRESS since 1964 管理人 YOS |
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